チューリッヒ保険について思うこと

歪んだ株式市場のもとでは、資金が本来行くべきところに行きません。 成長性の高いところや、効率的に使われるところに資金が回らず、無駄に使われてしまいます。
資金が行くべきところに行かなければ、資金と一緒についてくる「もの」や「ひと」も効率的に配分されなくなってしまいます。 結果として、経済全体として目一杯成長できないことになってしまいます。
株価が効率的に決まることにより、株式市場を通じて資源配分の最適化が行なわれ、社会のパイが拡大するようになります。 このようにして、経済はフロンティア(最前線)に向かって拡大するのです。
飛行機の中でたまたま隣に座ったアメリカ人と話をしました。 彼は家庭用のスイミングープールを作る会社を経営していると言います。
「どこの地域で一番売れるのか」と尋ねてみました。 「1位はインド、2位はアメリカのカリフォルニア州だ」との答えが返ってきました。
インドで家庭用の水泳プールがよく売れるというのは、ちょっと驚きでした。 ただよく考えてみますと、なるほどインドやブラジル、メキシコなどには金持ちがたくさんいます。
彼らの多くは、高い塀に囲まれたような屋敷に住んでいて、なかなか人前に姿を現わしません。 金融資産の大半は、自国ではなく、アメリカやスイスなどに持っていたりします。
皆さん方はこのような金持ちをどう思いますか。 彼らのようになりたいと思いますか。

たとえ個人が金持ちになったとしても、その属する社会(会社や団体、コミュニティー)、さらには国が豊かにならないことには、本当の意味での豊かさを実感できないのが実情のようです。 貧しさを抱えこんだ国では、たとえば犯罪におびえた生活を強いられてしまいます。
護衛やセキュリティー・カメラで囲まれた家に住み、守衛(ガード)を乗せて車で移動する、こういった生活を強いられます。 あるいは、あなたのすぐ近くで貧困にあえぐ子供の姿を目の当たりにすることになります。
残念ながら、世界のかなり多くの金持ちは、個人は金持ちだけれども、国や社会が貧困にあえいでいるといった状況にあります。 かつてKネディ大統領は就任演説で、「自由社会が貧しい多くの人々を救えないなら、富める少数の人々も救えない」と述べました。
資源を効率的に配分する。 成長性の高い会社、事業に、「ひと、もの、かね」がきちんと行くようにする。
その結果、社会全体が目一杯成長できるようにするIこのことによって社会全体、国全体がより豊かになります。 国全体が後ろ向きのような仕事をしていたのでは、経済は衰退していきます。
「ひと、もの、かね」を流動化させて、成長する分野に投入していかなくてはなりません。 金融はまさにその役割を担っているのです。
いわば、一国の経済という「体」の中を循環する「血液」なのです。 1997年11月、H海道拓殖銀行が破綻し、同じ月の1週間後、Y一護券が自主廃業を決めました。
翌年10月、N本長期信用銀行が破綻し、追いかけるように12月には、日本債権信用銀行が破綻します。 日本の金融が揺れに揺れたこの時期、NHKは『マネー革命』というNHKスペシャルを四回にわたってシリーズで放映します。

アメリカの巨大ヘッジファンドの内情を克明に描き、98年のロシア危機をタイムリーに取り上げるなど、当時たいへん評判になった特集でした。 読者の皆さんの中にも、覚えておられる方が多いと思います。
私には、この番組のディレクター、A田洋さんが、四回のシリーズの最後にお話しした内容が印象的でした。 ロバートーマートンとマイロンーショールズという2人のノーベル賞学者が、『ロングタームーキャピタル』というヘッジファンドでパソコンの画面を見ながら働いていたことなどを指摘してのコメントです。
「こういった優秀な頭脳がモニターの前で利ざや稼ぎのようなことをしているのは、どこか不健全です。 もっと人間の役に立つ、価値を生み出すことに力を注ぐべきではないでしょうか」 A田さんの疑問はもっともなものだと思います。
ながら、角度を変えてみますと、別な見方もできます。 ノーベル賞を取るような優秀な頭脳がマーケットに参加しているからこそ、マーケットの効率化が図られ、市場がより完全なものへと近づくのです。
株式市場では「株価」というメカニズムを通じて、資源配分が最適化され、資金が本当に必要とされるところに行くようになるのです。 もう少しわかりやすく説明すると、こうなります。
株価が効率的に決まるということは、非効率な組織や経営者が撤退を迫られ、その結果として、社会全体がより大きく成長できるようになることです。 いつまでも株価の低い会社は、株主(あるいは取締役会)が経営者に対し、更迭を迫るようになります。
なかには企業統治(ガバナンス)が機能せず、無能な経営者が居座り続けるケースもあるかもしれません。 そのような場合は、今度は会社が買収の標的にされることになります。
こうして市場は不適格な経営者を排除していくのです。 日本では、自動車や電機などの1部に、世界の範たるひじょうに優秀な企業がある一方で、残念ながら旧態依然の非効率な会社も混在しているようです。

そのような会社は、経営者による公私混同がなされたり、深刻な大企業病に陥っていたりします。 あるいは銀行が何度も偵権放棄をしてもいっこうに立ち直らない会社もあります。
そういった会社に資金が配分されても砂地に水をまくように消えていってしまいます。 市場が効率的でなく、有効に機能しない経済では、これらの非効率的な経営者や会社が生き残り、その結果として、効率的な会社の足まで引っ張ってしまいます。
社会全体が本来成長できるところまで成長できないことになり、皆が不利益を被ってしまうのです。 1人1人が儲かる株を見つけようと努力することで、市場の効率化が図られます。
その結果、経済全体がフロンティア(最前線)に向かって拡張し、より豊かな社会が実現していきます。 実は、私がスタンフォード大学に留学していた時にゼミで世話になったSャープ教授はこのフロンティアへの拡張という概念を、リスクとリターンの関係の中で捉えました。
マーコヴィツ教授のポートフォリオ理論に磨きをかけ、1990年にノーベル賞を受賞します。 Sャープ教授はアメリカでは多くのプロのアナリストたちが市場で株価を分析しており、市場は効率的であると考えました。
株価はすでに決まるべきところに決まっており、市場平均以上のリターン(期待される株価の上昇)を上げるのは難しい、としたのです。 このことを、もう少し詳しく見てみましょう。

油田を探索する会社や通信衛星を打ち上げる会社など、株価変動のリスクの高い会社は、リターンも高いのが一般的です。 Sャープ教授は効率的な市場のもとでは、リスクとリターンの関係を打ち破るような株式を見つけることは難しい、としました。
同じリスクで、よりリターンの高い株式を見つけることは困難であると考えたのです。 その代わり、投資家は、株式を複数持ち、ポートフォリオの形に分散投資することで、リスクとリターンの関係をフロンティア(最前線)にまで拡張できることを、数学的に証明しました。
同じリスクでもより高いリターンが得られるのです。 ポートフォリオというと、分散投資によりリスクを軽減するという側面が強調されています。

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